参考文献要約

 

参考文献要旨

                                         

経済活動の接触場面から日本語教育を考えるー台湾の日系企業の調査からー 工藤節子
 
 日本と台湾との経済活動が活発になってきており、今後もたくさんの経済活動にさまざまな形で加わっていくことが予想される。本稿はでは、大学生たちの将来の職場の一つとなる経済活動の場に焦点を絞り、そこで展開される接触場面で発生しているコミュニケーション問題および共生に向けた意識の調査から、学生たちに求められる能力を探る。台湾にある日系企業および日本と取引のある企業の社員を対象にアンケートを配布し、日本人72名、台湾人97名から有効回答を得た。その結果、コミュニケーション上誤解を生み、問題となったのは、挨拶、意見を言う、謝る、報告する、断り、弁明、叱責など一連の発話行為の理解と産出、またビジネス文書の作成など丹和に関係するもの、敬語および相手や譲許に合わせて丁寧さをあらわす婉曲的な言い方など歩ライトネスに関わるものであった。また、異なる労働慣習や行動様式の解釈が言語能力以上にコミュニケーション問題を生じさせ、相手への不信感を生む結果になっていることがわかった。
 
 
 
日系企業が現地社員に求める「ビジネス日本語」の実態 野元千寿子
 
 中国に進出した日本企業は、人材雇用や育成に前向きであるといわれているが、現状では日本語能力や評価や日本語学習が必ずしも現場のニーズを満たしているわけではない。本稿では、大連に進出した日系企業に対して行った聞き取り調査の報告を基に、日系企業が中国人現地社員を採用し活用する際に求めている日本語能力を把握し、ビジネス日本語教育における課題を明らかにしようと試みた。その結果、日系企業の人材採用や人事考査で日本語能力を測定、評価するために、現場のニーズにあった基準が求められていることがわかった。また、ビジネス現場では「日本人とうまく仕事する」ための「仕事能力」が求められていることがわかったので、これを具体的に把握することで日本語教育や教材、教授法に反映できると考え、集団規範の「見える部分、見え隠れする部分、見えない部分」という考えに基づいて、仕事能力を形成する要素の抽出、分類を試みた。
 
 
 
 
 
 
外国人社員と日本人社員―日本語によるコミュニケーションを阻むもの― 清ルミ
 
 日本で働く外国人ビジネスピープルの数が年々増加している。本稿は、日本において仕事の殆どを日本語で遂行している上級レベルの外国人社員と、共に働く日本人社員を対象に面接調査を行い、主として外国人社員側からの仕事上の阻害要因を言語面と心理面から考察した。その結果、外国人社員にとって意見の産出、受容において適切な敬語表現、待遇表現、婉曲表現を駆使する事が最も困難であり、特に「断り」の状況においてそれが顕著であることが明らかになった。また、ビジネス文書や翻訳などにおける日本語特有の形式表現にも困難を感じていた。日本人側は、言語面の阻害要因を全面的に外国人側に見出し、外国人に日本的な言語行動を暗に要求していた。さらに、数量的データに加えて、情意コメントの分析や観察法による心理的側面の考察を行った結果、言語面の阻害点の下に潜むさまざまな問題点が浮かび上がった。
 
 
 
オフショア開発現場における異文化間コミュニケーション摩擦  西田ひろ子
 
 本調査は海外進出日系企業で働く日本人と現地従業員が同じ職場で働く際にどのような行動様式に文化の相違を感じていたのかについて調査したのもである。この際、日本人または現地従業員は互いの行動に文化の相違を感じるのは、互いが互いの社会で生活している間に獲得した長期記憶が相手のそれと異なることから生じたという考え方に基づいて調査を実施した。これまでの文献から企業内で異文化コミュニケーション摩擦を起こすととらえられている行動にヒントとして回答者に与え、過去の体験を思い出させ、過去の体験に基づいて、両者の間の異文化間摩擦の実態を明確にするという手法を用い、中国、マレーシア、フィリピン、アメリカに進出した日系企業に勤める日本人および現地従業員を対象にアンケート調査を行った。その結果、日本人回答者が特に文化の相違を感じていたのは、現地従業員の業務遂行行動であることが判明した。それに対し、現地従業員が特に文化の相違を感じていたのは、「人間関係・コミュニケーション行動」であったことがわかった。
 
  
 
ビジネス上の接触場面における問題点に関する研究―外国人ビジネス関係者を対象として― 近藤彩
 
 日本経済の国際化と共に日本語によるビジネス・コミュニケーションの機会が増加している。日本人と外国人ビジネス関係者(FB)の接触場面で、ビジネス慣行の相違などが起因となってさまざまな問題が生じている。本研究では、外国人ビジネス関係者自身がビジネス上の接触場面で生起する自分たちの問題をどのように把握しているかを明らかにすることである。つまり、当事者の内部の視点から、イーミックな解釈を提出することを目指す。本研究の目的としては、接触場面ではFBが感じている問題点を明らかにすることとその問題点にFBの属性が、どう関係しているのか、その影響を調べることである。FBへ質問紙調査を行った結果、「不当な待遇」、「仕事の非効率」、「仕事にまつわる慣行」、「文化習慣の相違」の4因子が抽出された。次に、因子とFBの属性との関係を調べた結果、所属会社、出身圏、滞在期間といった属性の違いが問題点の把握に影響を与えていることが明らかになった。